全体を一度に見ることはできない(平家物語屏風)
トーハク(東京国立博物館)の特別展示、「平家物語一の谷・屋島合戦図屏風」
高精密複製図を見ました。
畳に座って、ガラスケース越しではなく、間近に見ることができます。(ざっくり言ってしまうとホンモノじゃないからできること。原本はイギリスの大英博物館所蔵だそうです。)
照明デザインも下からの暗い光で、屏風の陰影が感じられます。
昔は、こんなふうに見てたのでしょう。実際には、どんな広さのお部屋にどういう配置だったんでしょうね。
屏風の面白いところは、立体的に世界が描かれているところ。右側から見るのと、左側から見るのとでは見える世界が全く異なり、例えば左から右へ移動しながら見ると、隠れていた人物や出来事が姿を現していく、時間経過や視点の変化を体感できるところ。
例えば、那須与一が扇の的を射る場面。
右側からだと、平家の女房の頭上に扇が翻るところしか見えない。
左からだと、矢を放った与一と、周りの舟の人々がある一点に注目し驚いているさまだけ。
説明のパネルでは、与一が女房の掲げた扇に矢を命中させ、周りがわあっと驚いているのが一目で見られるようになっていますが、実際にこの3点を同時に見ることはできません。
描写はとても細かく、一人一人の装束や表情、動きもとても生き生きしている。
全体・流れ・部分を同時に全て視界に入れることはできない、こういう時間と空間の表現がとてもおもしろいなーと思います。
屏風を折った状態で立てることで、どこかが隠れた状態になる。
屏風の左側から見ると、源氏の軍勢、矢を射る那須与一、一の谷の逆落とし(鵯越の急襲)が重なって見える。この後、与一を讃えて舞う平家の武者を、与一は義経の命令で射る。物語の鍵となる扇の的と義経はこの方向からは見えない。
右側から見ると(※右端の源氏軍と「義経の鵯越」は見えない。点線で描くべきところ、間違えました。)鵯越、平家の屋敷、扇の的。実際には攻められる屋敷、射られる的だが、攻め手が見えないので、一見平穏に見える。
熊谷直実は平敦盛を呼び止めるところ。このあと敦盛が若いのを見て直実は躊躇するが、敦盛に「速やかに首をとれ」と促されついにその首を掻く。
鵯越と弓流れ、見える義経の姿は必ず一人だけ。義経は二人同時に存在しない。
※これは動画ではなくて、画像キャプチャ-。右側からの画像を取り忘れたので。
動画ファイルは大きすぎて貼れない。
何かの課題・事象について、「ここが見えてなかったなー、抜けてたなー、一方的だったなー」なんて思うことがありますが、神の視点に立たない限り、全体も流れも細部もすべてを見通すことはできないんだなーとも思います。
右側画像の撮り忘れしてるうっかりさんなわたしが、わかりやすい一例です。
※この平家物語屏風複製図、東京国立博物館の展示は、2018年12月2日(日曜日)まで。
本館正面入口入って左手の、特別4室です。
遠くから、近くから、座って、歩いて、立って。行きつ戻りつ。いろんな見方をしてみてください。